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海に語らう (8) 上限の月

白菫から薄群青へ
薄群青から群青へ
群青から紺青へ

海は深度を増す毎に 色を変えていく



ユリウスは、無心に探し続けた。

囚われの女性を。
女性を捕らえた者を。

蠢く海水、海底を這う魚達が 眩いユリウスの髪に振り向き、口々にささやいた

「あそこにいるよ」
「あっちだよ」

「ありがとう」と応えつつ、ユリウスは泳ぐ速度を速め、更に深度のある海底へと向かった。

海の色が漆黒に限りなく近づいていく
視界が零へと限りなく近づいていく

(もう見えない!これ以上前に進めない!)

万事休すと思ったその瞬間、絹を裂く女性の声が聞こえてきた。
眼を凝らして声の方向を見ると
キラキラと黄金に煌き揺らめくものが見える

自分と同じ金の髪、その煌きは-

「助けて!」

「アデール夫人!」

ユリウスは更に眼を凝らした。

アデールを羽交い絞めにするその者は・・・!

「夫人を放すんだ!」
ユリウスは猛速度でアデールを捕らえる者に突進した。
しかし、その者はアデールを捕らえたまま、瞬時に場所をユリウスから遠い位置へと移動した。
彼らは、ユリウスが突進しては、遠くへ移動する。
時に大きな波を起こし、ユリウスを激流へと巻き込む。

(畜生・・・もう少し、もう少しだ)
遠い昔、カーニバルで扮装したヴィルクリヒ先生と格闘した際、先生の手にあるナイフを奪おうと狙いを定めた。
あの時の意識が甦る。

ユリウスの眼は妖紫へ変化していた。

しかし、
手を伸ばし、最速で アデール達に突進していったユリウスに
今までで最大の波が襲った。


(嗚呼!)





それからどの位 時は過ぎたのだろう

眼を開いたユリウスは 海面に漂っていた


視界に広がる群青の夜空

全速力で泳いだ後の荒い息遣いはユリウスに残っていた

夜空に星々が小さく閃いている

ユリウスは息を整えようと、海岸線を見やり髪を海面へ流した



海岸線には
青白、時に白紫の光を放つ夜光虫の一群



ユリウスは 疲れた身体を波に沿わせ、漂わせた


すると、
夜光虫の一群を突き破り、一艇の巨大な艦船が海面へ姿を現した


艦船のサーチライトがユリウスを照らす




「ユスーポフ艦長、あそこです!」
「ご苦労、ロストフスキー師団長」




サーチライトの光を 手で遮りながら
指と指との間に見える 艦船の船首に起つその人を ユリウスは見た


サーチライトが消され、常夜光に切り替わる


両端鋭く円を描く上限の月を背に、その人は船首に起ち、ユリウスを凝視していた。


「レオニード・・・!」


(次号、続く)

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by greenagain2 | 2008-09-21 06:24 | 海に語らう
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